君だけを愛す。★010★
同じ社宅に絵の上手な先輩がいた。私は稚拙な怪獣の絵を描いては、彼に見てもらったが、特にコメントをもらうというわけではなく、一緒に絵を描きあった。私は描きたい物を単に描くだけだったが、彼は、丁寧に細部まで執拗にデッサンしていた。私の絵はどんどん簡略化されていくが、彼のはどんどん複雑化されていった。白に近付く絵と黒に近付く絵といえばいいだろうか。その対比が私には面白かったが、親たちは判で押したように彼の絵をほめた。私は密かに児童館の彼女と彼を会わせたかった。過剰な感性を持つ、この2人を会わせて、一種のコラボレーションを企んでもいたのだ。ある日、彼を誘って、児童館の絵画室に行った。しかし、そこにいたのは線の細い彼女ではなく、彼女の倍程ありそうな体格の良い男だった。私は、その時点で言葉を失った。彼女のことを聞くと、先日やめたとそっけない返事。歯車は噛み合ない。失望の色を隠せない彼と一緒に帰ることしかできなかった。彼は、その後、親の関係で赤羽に転居し、その後、女性と心中を図り帰らぬ人となる。太宰治を気取って自分だけ助かる積もりだったが、女性と一緒に亡くなったと、彼の親が私の両親に語っていたのを盗み聞きした記憶がある。心中というはかなくも不毛な響きに救われなさを子供ながらに感じてはいたのだが。
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